昇圧薬
昇圧薬は血管収縮作用と強心作用のどちらか,あるいはその両者の作用により血圧を上昇させます。アドレナリン作動薬(adrenergic drug)は,アドレナリン作動性神経と同様の作用を示す薬物で末梢血管の収縮に作用する受容体に結合して血圧上昇作用を示します。また,直接血管に収縮作用を持つバゾプレシンも最近では昇圧薬として用いられています。
アドレナリン生成過程
ドパミンはノルアドレナリンの前駆体であり,α,β受容体に作用します。また、D1・D2受容体とも結合して作用します。D1受容体は腎臓など血管平滑筋に分布しており,cAMP濃度上昇を介して血管平滑筋を弛緩させることで,腎血流増加および利尿作用を示します。血圧上昇作用を持ちながらも,乏尿や脈拍数増加など交感神経刺激作用が少ないのが特徴です。ノルアドレナリンは,αおよびβ1受容体に作用し,β2受容体への作用は少ない。末梢血管収縮による昇圧作用を持つことから,血液分布異常性ショック,敗血症性ショック時の昇圧薬として使用されます。
「ドーパミン」→「ノルアドレナリン」→「アドレナリン」という順番で生成されます。
アドレナリンはカテコールアミンの各受容体に作用し,強心作用,昇圧作用を期待して使用されます。即効性があり,β2受容体への作用を有し,気管支拡張作用,散瞳,血糖上昇など,交感神経系を刺激して各種作用を発揮します。臨床では心肺停止患者の蘇生処置時や,アナフィラキシーショックに対する気管拡張,重症気管支喘息発作時の気管支拡張に用いられます。
イソプロテレノールはアドレナリンのN-メチル基をN-イソプロピル基に置換した合成カテコールアミンです。強力なβ作用を持ち,β1・β2に等しく作用し,また高濃度ではβ3受容体に作用します。
昇圧剤(内服薬)
・塩酸ミドドリン(メトリジン)
動脈系に直接作用(α1受容体)して収縮させる。心臓や脳の血管には作用しない。甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫のある患者には投与しない。副作用として、過敏症、嘔吐、悪心、腹痛、動悸、胸が苦しい、頭痛、不眠、発疹等が起きることがある。
・塩酸エチレフリン(エホチ-ル)
エホチール自体がアドレナリン受容体刺激薬として、α、βアドレナリン受容体を刺激し、血圧上昇作用を示す。交感神経(α1とβ受容体)を刺激し、血圧を上昇させる。心不全の人には禁忌。副作用として、嘔吐、悪心、胸が苦しい、動悸、頭痛、発疹等が起きることがある。
※慢性的な低血圧
・メチル硫酸アメジニウム(リズミック)
ノルアドレナリンと競合して末梢の神経終末に取り込まれ、ノルアドレナリンの再取り込みを抑制すると同時に神経終末においてノルアドレナリンの不活性化を抑制し、間接的に交感神経機能を亢進させる。間接的に交感神経機能を亢進して、血圧を上昇させる。高血圧症、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、狭隅角緑内障、残尿を伴う前立腺肥大のある患者には投与しない。副作用として、食欲不振、腹部膨満感、動悸、頭痛、不眠、発疹等が起きることがある。
※自律神経性低血圧
それぞれの特徴
・エホチールは注射剤があり、透析中の低血圧に投与されます。
・エホチールは心拍数に影響が少ない。
・リズミック、エホチールを併用することもあります。
・リズミックは透析前投与により透析後の低血圧を予防します。
・速効性はエホチールが優れています。
カテコラミンとは?
・脳や副腎髄質および交感神経に存在する生体アミンの総称です。
・生体内ではドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの3種類。
・合成カテコラミンとして、ドブタミン、イソプロテレノールの2種類。
・バソブレシンやホスホジエステラーゼ阻害薬は昇圧剤でありカテコラミンではありません。
<ERで使う主なカテコラミン>
・ドパミン
・ドブタミン
・ノルアドレナリン
・アドレナリン
ガンマ計算
ここでおさらいしておきたいのがγ(ガンマ)計算。最近ではあまり使われなくなってきていますが、まだγ(ガンマ)でオーダーを出されるドクターもいらっしゃいますので簡単にご説明します。
1γ=1 [μg/kg/min]
↓ まず体重を消しましょう
体重をかけると”/(パー)”が1つになります
= 1×体重 [μg/min]
↓ μg=1/1000mgなので
=1×体重×1/1000 [mg/min]
↓ シリンジポンプは普通「1時間あたりの流量」
だから60分をかけます
=1×体重×1/1000×60 [mg/h]
↓ これを整理すると
=0.06×体重 [mg/h] となります。
では、「この患者さんにとって、1γが何mg/hなのか?」計算してみましょう。
1.体重50kgの人であれば、1γ= 50kg×0.06 = 3.0 [mg/h]
体重50kgの人に3γ流すのは、1γ= 3.0mg/hだから3をかけて3γ= 9.0mg/h
2.体重75kgの人であれば、1γ= 75kg×0.06 = 4.5 [mg/h]
体重75kgの人に5γ流すのは、1γ= 4.5mg/hだから5をかけて5γ= 22.5mg/h
です。何となくご理解いただけたでしょうか?
ドパミン塩酸塩(α、β作用)
ドパミン(200 mg/200 mL,0.1%製剤) (600 mg/200 mL,0.3%製剤)
用量依存性で作用が分かれます。少~中等量:β刺激薬,高用量:α刺激薬としての作用が前面に表れます。低用量での腎・腸管血流量増加作用がある。高用量になると血管抵抗が大きくなり心拍出量低下。
血圧維持にのみ使用。ショックのときは使用しない。
ドパミンはノルアドレナリンの前駆体であり,α,β受容体に作用する。D1・D2受容体とも結合して作用します。D1受容体は腎臓など血管平滑筋に分布しており,cAMP濃度上昇を介して血管平滑筋を弛緩させることで,腎血流増加および利尿作用を示します。
1~5γ 上限20γ(0.3%で1γ=0.02ml/kg/hr)
使用する場面:心拍出量低下・体血管抵抗低下による低血圧,循環血液量回復までの一時的治療(HRと血圧の両方を上昇させます。腎血管拡張や冠動脈拡張の作用もあり、尿量も増加させます。)
副作用:頻脈,心筋虚血
ドブタミン塩酸塩(β作動薬「特にβ1」)
ドブタミン(100 mg/5 mL )
β1刺激薬,心収縮・心拍出量を増やし,末梢血管を拡げる作用があります。血圧を上げずに心収縮能を上昇、肺うっ滞に効果的、副作用は特にありません(昇圧剤作用は弱い)
1回拍出量のみ増加
α血管収縮+β2血管拡張⇒打ち消し 心拍数/血圧は変わりません。
血圧が維持されていれば3~5γで使用します。
※DOAとの併用は血圧を維持するため
(1~5 μg )×0.06×体重[mg/h]
体重50kgの場合、点滴0.15 mL(3mg)/時~0.75ml(15mg) /時でスタート
1~5γ 上限20γ。1A(100mg)を50mlに希釈した場合は、2mg/mlとなるため、3mg~15mgいきたい場合は(3÷2=で1.5ml/h~15÷2=7.5ml/h)となる。
使用する場面 左心不全,両心不全。特に体・肺血管抵抗増大を伴う低心拍出量状態
副作用 血圧低下,虚血増悪
※希釈には5%ブドウ糖注射液、「日局」生理食塩液のほか5%キシリトール、5%ソルビトール、20%マンニトールあるいは乳酸リンゲルの各注射液も用いることができる。
ノルアドレナリン
ノルアドレナリン(1A:1 mg/mL)
α+β刺激薬(α>β)。強力なα1,α2血管収縮作用があります。Α1+β1作用で強力の昇圧作用(迷走神経反射で徐脈に)副作用は腸管虚血・腎虚血(敗血症時は腎血流量は保たれる)頻脈性ショック患者には頻脈になりにくく強力な血管収縮作用(強力な昇圧作用)があるノルアドレナリンを使用
できる限りCVルートから投与(長期投与は手指趾の壊死を起こす)
体重50Kgの場合、1γ:0.06×50=3mg/h、3mg/20mlつまり0.15mg/mlであるため、3÷0.15=20ml/h、0.1γだと2ml/hとなる。
使用する場面:敗血症(敗血症でのみドパミンより血行動態が安定し,死亡率が低い)
副作用:腸管虚血,腎虚血(敗血症の場合は腎血流が保たれる)
アドレナリン(強力なα、β刺激)
NoAよりβ1作用は強いがβ2作用で打ち消されます。
副作用は頻脈・不整脈・臓器虚血(ショック患者では頻脈になり使いにくい)
蘇生行為のときに 1mg/1mL(0.1w/v%)
初期投与0.1γ、0.02~0.3γの範囲内で調整。
体重50kgの場合、1γ:0.06×50=3mg/h、0.1γ=0.3mg/h、3mg/20mlだと0.15mg/mlとなるため、2ml/hとなります。
1回1A3-4分ごとに、波形確認が2分毎のため通常は4分毎に使用されます。
持続投与はまれ
メイロンのルートでは力価⇓
心肺蘇生時は0.1~1Aを静注します。長期使用でアシドーシスや腸管虚血のリスクが高まります。
フェニレフリン(ネオシネジン)
超強力な血管収縮薬
神経学的疾患、麻酔薬で血管が開いたときに使用します。
OPE時のみ使用
静注:1A=1 mg、生食9 mlを加えて全量10 mlとして1~2mlずつ使用
皮下注射及び筋肉内注射:1回2〜5mg
(生理食塩液、リンゲル液若しくは5%ブドウ糖液等で可)
血圧を上昇させHRを減少させます。末梢血管抵抗の増大により冠動脈血流も増加します。効果出現が早いですが、5~10分程度で効果が切れます。
イソプレナリン(プロタノール)
Β作用
強心薬
Β1=心拍数⇑ 心収縮力⇑
Β2=血管/気管支平滑筋⇓
純粋なβ作動薬
1回拍出量⇑心拍数⇑=心拍出量⇑⇑
1A/10ml生食:1mlづつ使用
※現在あまり使用されない
強力なβ刺激。収縮期血圧は上昇する一方でβ2作用により拡張期血圧が下がり平均血圧も低下することが多い。強い除脈を改善させたいときに用いる。